
実際、竹久夢二という人は、女性にもてた。常に周りには女性がいたそうだ。
モチーフとなる「夢二式」美女が必要だったからだ。だから、当然のごとく女性遍歴も多い。
最初に結婚したのは、この戯曲には登場しないが、24才のとき。
相手の岸たまきと「港屋」を開店後、笠井彦乃(も、この戯曲には登場しない)と出会ってからは、家庭を捨て劇的な恋に狂い(彦乃は病で死亡)、絶望の淵で巡り会ったのが「お葉」だ。
「お葉」は、竹久夢二にとって、初めて意のままにならない恋の相手でありながら、緊縛モデル(つまり今でいうSM系)も平然と努めていた魔性の女、なのである。
名越さん演じる「お葉」は、僕の想像を超え、異空間まで突き抜けている。
「お葉」は秋田出身なので、若干の秋田弁が入っているが、それがまた、かえっておかしい。
本物の秋田弁になると、普通の人ではとても解釈不可能なほど、アクが強いため、少し抑えめに方言指導をしていただいた。
失礼を承知で打ち明けるが、実際の名越さんも奔放な方だと、周囲ではようやく気がつき始めた。
名越さんは自由自在だ。とんでもなく無邪気なのだ。
名越さんの「お葉」は、この後どうなっていくのか。
僕たちの気付かぬうちに、この「少年山荘」をそっくりそのまま、乗っ取る気ではないのか?
名越さんの想像力が生み出した「お葉」は、僕の考えだした人物像なんか、とっくに飛び越えているのだ。毎回の稽古がとても新鮮だ。
台本よりも、だんぜん面白い。
役者の想像力、体現する振り幅とは、改めてスゴイものだと実感せざるをえない。
これから末恐ろしい。
……ほどに、「お葉」の一挙一動が、楽しみで楽しみで仕方ないのである。
尾崎太郎