
一番居心地がいい。どうも背後に人がいるのは落ち着かないのだ。
従って、本読みの時、ほとんどの役者さんの姿は横顔なのである。
...昨年の稽古終わりのこと。皆で鍋をつついていた。
下戸の分際の僕が、なにを思ったのか、珍しくセンター位置に陣取った。
(折角のこの機会。なるべく皆と会話したかったから)
だが、やはり落ち着かない。
背後には大勢の他の団体さんもいる。
…駄目だ。駄目だ。場所変えたい! 逃げ出したい!
ふと視線を上げたその時である。がくがくと衝撃に襲われた。
初めてまともに尾身さんの正面顔を見てしまった。
…ち、小さい、顔が。そして、め、目が大きい。黒い面積が圧倒的だ。
これぞ夢二人形…。思わず口が馴れ馴れしく滑った。
「大きいですねー」
「は? 」
何事かと尾身さんは目をぱちくりさせている。
「でも小さいですねー」
「へ? 」
尾身さんは僕から引いているのだろうか。
あせった僕は、右隣に陣取る鈴木さんと右対角の名越さんに体勢を移行した。
「えー、それ本当ですかー」
「……」
己の立場と場の空気を無視する僕は、やっぱりセンター位置には向かない男なのだ。
尾身さんは、いい感じに酔っているパパ(檀さん)+悪い商人(平尾さん)+夢の童子(石井さん)+お茶目ぶりを発揮した某演出家に対し、かいがいしく皿を運んでいる。
流石、青年座。先輩後輩の関係はきっちりしている。(当たり前か)
気のせいか、僕にはあまり運ばれない。気のせいだ。
その後の僕。諸先輩たちの為になる話を聞く、完璧なる端的な役どころに徹したのであった。

話を本題に戻そう。
ゆき江という役は、夢二(檀さん)と、少年山荘で働く青年(嶋田さん)との間で葛藤する難しいポジションだ。
おまけに、恋の強敵「お葉」(名越さん)との大バトルもある。大変だ。
でも、やりがいもあるはず。
負けるな、「ゆき江」さん!
尾崎太郎