
、キャストが大筋決まったと教えられた。
「竹久夢二役は…檀臣幸」
「ダン……さん? 」
なな、なんと、あの檀さんである。その時、僕はびっくり仰天するあまり、ひええと阿呆のような声を発したと思う。
というのも、檀さんとはかなり縁が深いのだ。
全くもって一方通行の縁だが。
僕は、青年座研究所を卒業してから某広告代理店に入った。
次第に業界にも馴染み、毎晩てっぺん(夜十二時のこと)過ぎに食べる美食のおかげでスポンジが水を吸収するように肥え太った。
な、なんと二十代中盤なのに腹も出てきた。
減量するためにスポーツクラブに入ったが、動機が不純なので長続きしなかった。

なんの予備知識もなかったが、見ている最中、全身に鳥肌が立って、もういてもたってもいられなくなった。
そのとき、狂気的な犯人役「世良二良」を演じていたのが、檀さんだ。
僕はそれから数週間後、会社に辞表を出した。
ガジラ全ての演目を書き下ろし演出している鐘下辰男さんが「塵の徒党」という一年間のワークショップを開催するという情報を見つけたからである。
つまり、実に勝手な言いぐさだが、檀さんの演技は、若き日の僕の人生を狂わしてしまったのである。
その檀さんが、僕の書いた竹久夢二を演じるとは。なんとまあ、人生とは(振り返るにはまだ早いが)色々と粋な演出をやってくれるんでしょう。
稽古場の檀さんは面白い。実に面白い。
なにが面白いかというと、日毎に変化していくのだ。
変幻自在なのだ。その振り幅は実に大きい。
だけど、決してぶれない。
檀さんの真似なんて普通の人には絶対にできない。
檀さんを前にして、弱気な僕は緊張するあまり、未だになかなか話しかけられないのだが、この幸せな再会をコツコツ、モゾモゾと勝手に楽しんでいるのである。
かなり暗い性格かもしれない。…だって、檀臣幸が演じる竹久夢二。考えただけでもぞっとするではないか。(実際、かなりコワい。いやスゴイ)
もしかしたら、今回の檀さん演じる竹久夢二は、貴方の人生を
狂わしてしまうかもしれません。
どうぞそのお覚悟をもってして劇場にお越し下さい。
僕はこれ以上、人生を狂わせたくないので、なるべく直視しないようにします。
尾崎太郎