いよいよいよいよ、本番に近付いてきた。
稽古は最終段階に入っている。
ここまで来たら、演出家のイメージと役者の力を信じるしかない。



舞台監督、福田智之。福田智之さんは、「少年山荘」の舞台監督だ。
一見、強面の方だ。まさに、「職人」という言葉がぴったりくる。
かつて僕は職人に憧れていたことがある。残念ながら努力が足りず、職人にはなれなかったが。
数日前。稽古場の休憩中のひととき。
福田さん、ふとなにかが目に止まったのだろう。なぐり(トンカチ)を持って立ち上がり、スッと舞台に上がり、舞台の上をバコーン!! 
と轟音一発。
どうやら、一本のクギが舞台上に微妙に立ち上がっていたのだろう。
そのまま無言で、何ごともなかったかのように、スゥと元いた場所に戻る。
滅茶苦茶、クールだ。渋すぎる。
福田さんは独り言を呟くことが多い。さっきも、稽古場の隅で木材を切っていた。
「あれ? あれ? なんかサイズが違うんだよな」
と福田さん。たまたま隣にいた僕は「なにが違うんですか?」と問うた。
「うーん、ブツブツ」
「え?」
「おっかしいなあ 」
「なにがですか?」
「ブツブツ」
よく、わからなかった。とにかく、うまくイメージ通りに「型」が揃わなかったのだろう。

そうそう。以前、青年座の舞台監督に、畑守さんという人がいた。
すでにお亡くなりになったと風の噂で聞いたが、研究所時代の僕も、畑さんには色々とお世話になった。
「畑さーん」と男からも女からも慕われていた。畑さんも自分の息子のような気持ちで僕らに接してくれたのだろう。
酒が好きな方であった。飲む度に「お前ら、バカだなあ」と言いながら、ニコニコと柔和な顔を浮かべながら、酒ビンをいつまでも手放さない、そんな姿ばかり浮かんでくる。
酔えば酔う度に、口角泡を飛ばして、畑さんは僕らに「破壊と構築」の話をする。
「舞台ってのはよう、破壊と構築なんだよ。だから、いいんだう。お前ら、わかるか? 」
壊しては、新しいモノを創り、創っては壊す。その繰り返しが舞台監督の視座から見たエンゲキなのだろう。
研究所時代は、色々なことを学んだが、今振り返って一番印象深い言葉だ。

僕たちの「少年山荘」は、いま創られ、壊されようとしている。



尾崎太郎