演出の伊藤大。「この芝居、スピード感あるものにしたいんですよね」
伊藤先生は、最初にこう言った。

突如現れた先生は、僕にとってNEWタイプだ。
少なくとも、僕の身の周りには、あまり存在しないタイプだ。
その切れ長の細い目には、曖昧な追従笑いを許さない凛とした姿勢が漂っている。
その先生から「原作から少し変更を加えたいんですが」という依頼があった時、意味をはき違えた。少し? 冗談でしょう!
締め切りまで時間はあまり残されていなかった。
訂正。また訂正。そうして本読み稽古ぎりぎりで間に合ったのが「少年山荘」だ。
つまり、もはやこの戯曲は僕と伊藤先生との共犯作なのだ。
(色々とあるが、特に、夢二を巡るお葉とゆき江の対峙が明確になっている)
年末最後の本読み後、用事があって参加できない方もいたが、ほぼ全員で鍋をつついた。
この時、先生が放った一言に、温室育ちの僕はかちかちに凝固した。
「オレ、パ○○○ムが好きなんだよね」(※昨年の紅白に出場したユニット)

……またしても先生の懐の深さを知った思いだ。
先生は、僕にとって突如出現した新たな「山」なのである。

補足だが、先生が好んで発する演出用語のひとつに「ストローク」という言葉がある。
水泳で水をかくことではない。テニスやゴルフなどで、球を打つことではない。
「ストローク」を長くすることは、単に台詞を長くすることではなく、交わす言葉のゴール(結果)を急ぎすぎないということを、僕は改めて学んだ次第です、先生。

※お会いした時、「先生」と呼んでしまった。短い期間で「伊藤さん」と気安くスイッチできるほどの図々しさと勇気は持ち合わせていないので、このまま「先生」で通すことにする。




尾崎太郎