(池内風氏)
今回、青年座から執筆の依頼がきた時の率直な気持ちをお聞かせください。
最初、事務所のマネージャーを通して「候補の作家として検討してもらっている」と聞いた時は、正直驚きました。普段、小劇場で活動している私にとって、新劇の団体と関わることは無いだろうと思っていたので・・・。無意識に敷居の高さを感じていて、同じ演劇界に身を置きながらも、新劇の団体は縁が遠いという印象を抱いていました。だから正式に執筆の依頼がきた時は、本当にビックリしました。でもすごく嬉しかったです。実際に打ち合わせを始めていくにあたり、初めて青年座へ来た時は、かなり緊張していてガチガチでした・・・ちょっと怖いなぁって(笑)。自分の中で勝手に新劇はすごく厳しいイメージを持っていて、「変なことを言ったら怒られそうだな」とか、「一方的に色々なことを要求されそうだな」とか、「ちゃんと二人三脚できるのだろうか」など、あらゆるマイナスな予想をしていましたが、いざお話ししてみると、演出の磯村さんも製作の川上さんも、とても気さくな方たちで、安心して創作に臨むことができて、すごく有難い環境でした。
そう思っていただけて良かったです。それでは『穏やかな人と機』の執筆に至った経緯を教えてください。
実は今回のお話を頂いた時には、ひとつ書いてみたい題材があったのですが、普段私が活動している団体のテイストに寄りすぎている気がして悩んでいました。改めてゼロから、磯村さん、川上さんと一緒に設定を話し合うなかで出てきたのが、介護業界とAIの話でした。以前、AIに関する作品に少しだけ参加したことがあったのですが、その時は理解がなかなか追いつかなくて・・・。これから先の未来に向けて、ある程度、理解していかなければならないと切実に感じています。今後AIと共にどう生きていくのか、自分の勉強も踏まえて考えてみたいと思いました。
様々な世代の俳優が揃った青年座へ執筆するにあたり意識したことはありますか。
執筆を進めるうちに半分くらい書いたところで完全に行き詰まってしまい、最初に書いていたものを全て消去しました。このまま書き進めてもマズいと思い、初めから書き直したんです。登場人物たちが全員まじめになっていて・・・。出てくる人間たちが物語の中で遊ぶ余裕がなく、完成されすぎてしまっていたんです。これは先ほどお話しした勝手な新劇に対しての形式的なイメージに囚われていたのもあると思うのですが、資料として頂いた俳優の皆さんの顔写真とプロフィールからまじめな感じを抱いて書き始めてしまったんだと思います。でも青年座の方々がふざけられる余白があったほうが、意外性もあって面白いと思いまして・・・。「人との触れ合いみたいなものをすごく大切にする」ということを念頭に置き、物語を立ち上げていくと登場人物たちにとても愛着が湧いてきて、すごく牧歌的な人間たちになっていきました。出演している俳優さんたちと同様に作品の中にも世代の価値観の差みたいなものが反映されるとすごく面白いかもしれないと思っています。
私も台本を読ませていただき、会社で繰り広げられる人間模様が見どころだと感じました。
今すごく社会が合理性を求めた冷笑主義で遠回りをしてはいけない空気になっている気がしています。でもやっぱり人は一人では生きていけませんし、記憶に残っている豊かな温かいものって、人間同士の触れ合いじゃないかと感じています。今回の作品でも登場人物たちがそれぞれ置かれている状況は、観ていてキツイ部分もあるかもしれません。それでも自分の目の前にいる誰かのことを大切に思うからこその行動だと、感じ取ってもらえたらいいなという思いを込めて書きました。普段、私が「かわいいコンビニ店員飯田さん」※1で書いている雰囲気を没入しすぎると、もっとグロテスクというか、大変なものを想像される方もいるのかなと思ったんですけど、その辺のグロテスクさは全て構造の中に隠していて、表層的に出てくるやり取りは、温かみを感じられるよう意識しました。何でもない当たり前の日常に喜べるのは、どこかで「苦しい」「虚しい」「辛い」など反対の感情を持っているからではないだろうかと考えています。人間が抱える両面を行ったり来たりしながら人物たちが浮き上がってくると素敵な作品になると思いながら書きました。
(小暮智美)
※1 かわいいコンビニ店員飯田さん
2012年旗揚げ。池内風主宰の演劇ユニット。全公演の作・演出を池内氏が務める。
「1秒でも多く心動く瞬間を」合言葉に自分達の持っている小さな才能と勇気を出して発信し続ける舞台創作チーム。
後編に続く・・・
次回はタイトルに込められた思いについて迫ります!!
公演情報はこちら↓
『穏やかな人と機』
2024年12月12日(木)〜22日(日)新宿シアタートップス