幕開き、暗がりで板に付き、サススポットに明かりが入った途端、右上瞼が無性に痒くなった。しかし役柄上、自由に掻く訳にもいかない。微動だに出来ない裁判長であるから、これは辛かった。それでなくともじっと座りっ放しだと、背中やら尻やらがムズムズして来る。本当にじっとしているというのは難しい。セリフにしても動きを伴った方がずっと云い易い。十七人の登場人物中、全く動かないのは私だけである。この裁判長役は正に不動の姿勢を保たねばならぬ忍耐そのものである。