旅公演。なかなかできない体験をいろいろさせてもらっている。
いろんな景色を見ることができる。と言っても絶景や名所を訪ねている訳ではない。その土地の人にとっては何でも無いものが、ふっと通り過ぎる自分には素晴らしく見えるのだろうか。いや、それだけとは思わない。
普段何でもない景色が違って見える。例えば息つく間も無い程忙しい時間が過ぎて、一人でぼーっと一服している時、肌寒い楽屋口からビルのエレベーターが上下する光が見える。山道を走る車のヘッドライトが見える。それは今、この瞬間、自分にしか見えな景色だ。
そんな非日常的な事を考えさせられてしまうのが、つまりは旅だ。
もっと突っ込んで言うなら舞台上の相手役の真剣な目も、カーテンコールの光も拍手も、自分を通過する限り、自分にしか見えない素晴らしい景色だ。そんな色々なものをもらって旅をすることができる。
これは本当に素晴らしい。
広島の安佐南でも暖かい拍手に迎えられたが、搬入の時には雨が降ったり止んだりで気がもめた。
しかし、それはそれで霧雨が風流な趣きでもあった。
この先まだ旅は長い。新しい景色をたくさん集めていい旅にしたい。
石井淳。